電話営業(第1話)
テレコール(TEL CALL)
初めて就職した職場で、日々飛び交っていた言葉だ。
そこには、僕が初めての社会人となり就職した職場があった。
1993年
フリーターを卒業し、東京を離れ、社会人として初めて大阪に降り立った。
何度か遊びに来たことはある街だが、その時とは感じる空気が全く違った。
これから働くことになる初めての職場に僕は緊張しながら挨拶に出向いた。
そんな僕の気持ちを悟ってか、事務員の方が優しく丁寧に接してくれたことを今でも良く覚えている。
それは、この後に起きるインパクトとのギャップがあまりにもかけ離れているせいだろう。
入社に必要な書類の記入が終わると、事務員の方が上層階にある営業専用フロアーに案内してくれた。
”ここが君の職場です”
ドアを開けて目に飛び込んできたのは、机があるにも関わらず床に座布団を敷き、机の下に潜ってひたすらに電話をしている男達の姿であった。
意味が分からなかった...。
その日は、寮の手続きや引っ越しの片付けもあったため、何をするでもなく職場を去り寮で片付けをすることになった。
色々と片付けなければいけない時間は今日しかなかったこと、何もかもが初めてづくしの為、今日起きたことを一つ一つ振り返る余裕はなかったが、翌日のことを考えると不安しかなかった。
いったい何人いただろう。
30人くらいかな?
朝の朝礼で前に立ち入社の挨拶を行ったが、人前で話す機会がなどない為、緊張のタコメーターはレッドゾーンに飛び込んでいた。
そして、業務開始と同時にマニュアルも説明もなく突然、「手書きの文」と「コピーされた名簿の束」を渡された。
先輩社員らしき人から指示されたことは
”順番に電話して、この文章を読んで”
だった。
そう、僕が初めて入った会社は “先物取引″ の会社だ。
会社に就職するということを適当に考えていた僕は、面接する会社が
どんな会社なのか?
何をしている会社なのか?
それはどういう仕事なのか?
なんて全く考えずに受け続け、求人内容に「輸入品の金や大豆の販売」って書いてあるのを貿易関係の仕事だからかっこいいと勝手に勘違いして解釈し、入社した結果がこのざまだ。
正直なところ、入社してしばらくするまでは全く自分のしている仕事の意味が全く理解できなかった。
名簿を見て順番に電話する。
当時は、学校の卒業名簿が「名簿屋」というところを通して流通しており、個人情報保護法なんてものも無い時代だったので、卒業生は自分の就職した職場の連絡先などを名簿に載せていた。
きっと良い会社に入れたら、自信満々に卒業名簿に載せたのではないかと思う。
だから、名簿に載っている職場に向けてひたすら電話し、渡された文を読み続けた。
その時は、それが社会人の仕事なんだと思っていたから。
はじめまして、私は〇〇商事の△△と申します。
実は、本日初めてのお電話で恐縮ですが、□□大学の卒業生の方には当社大変お世話になっておりまして、今回是非××さんにもご挨拶できればと思いお電話させていただきました。
当社は、金融関係の仕事をしているのですが、××さん当社のお話などお聞かれになられたことなどございませんか?
という切り出しから、徐々に先物取引の勧誘に話を変えていく。
こんなやり方が営業になるのかと、もちろん半信半疑でひたすら言われた通りに電話してたが、ところどころから「ご注文ありがとうございます!」といった声が聞こえてくるではないか。
そして、営業マンの名前が並んでいるホワイトボードには、100万円だとか500万円だとか書かれていってるじゃありませんか!
うそ!でしょ???
その時の僕には、 ”その仕組み” が全く持って理解できていなかった。
つづく